【左官】2021.9-土壁の土

左官土壁の材料で使う“土”についてのコラムを書こうと思いましたがなかなか筆が進まず、そもそも“土”について物理的に考える機会がなかった私は、まず“土”について調べるところからがスタートとなりました。

あれやこれや調べるうちに、最終的には土壌物理学という学問に行き着き、もはや私の手におえない世界へと引きずり込まれる、、といったループにハマりかけてしまいました。

切りの良いところ?で抜け出した結果(笑)、私レベルでの簡単な回答をするならば、“土”とは、基本的に鉱物・有機物・気体・液体・生物の混合物で形成されているもの、ということで一旦着地します。

様々な側面からの物理的回答がありますが、今回は“色”について触れていきたいと思います。

土の色は、土壌鉱物の影響を受けますから、例えば、鉄なら黄色や赤色、有機物(生物の死骸)は黒色と褐色、マンガンと硫黄は黒い沈殿物を形成し、これらの色は色素として、土壌中で様々な色のパターンを作るそうです。

そして、ここまできてやっと本題に入りますが、今年の7月、鎌倉にオープンしたばかりのカフェ&ベーカリー BREEZE BIRD CAFE & BAKERY の左官土壁の仕上げに使った“土”について物語は繋がっていきます。

今回は地元神奈川で採れた土を使います。大小バラバラの土の塊を小さく細かくしていきます。左官材料にする為には、均等に混ざり易く、なじみ良くなるように、粒子(大きさ)を揃える必要があります。

高橋自身で制作したオリジナルの「ふるい機」を使って手作業で進めていきますが、かなり根気のいる過程です。炎天下の中、何時間もの時間をかけて納得のいく状態になるまで延々とふるいの作業は続きます。

そして、大きな塊の土も段々と角が取れて丸みを帯び、小さくなっているのが見て解りますね(チョコボールみたいで可愛いです)。下で受けている船の中の粒子はさらに細かくなっています。この様子はインスタグラムで動画(9月1日)をアップしていますので、興味のある方はご覧ください。

そして、完成までにはまだまだひと手間ございます。さらに細かい目のザルにかけてふるい、左官材料として良い塩梅になるまで細かく粒子を揃え整えていきます。

そしてこの土を使って、どんな土壁に仕上げていこうか思考を巡らせます。古都鎌倉、歴史、人々、暮らし、営み、、、様々な要素を取り入れた想いの詰まった壁を作りたい、そんな鎌倉らしい壁ってなんだろう。

高橋がイメージとして考えたのは「鎌倉古道・七つの切り通し」。歴史的な背景を掘り下げると、長くなるのでそこは触れずに進んでいきますが、七つの切り通しは、鎌倉の内と外を結ぶ中継の拠点であり、人々の交流の拠点でした。

この意味合いから、BREEZE BIRD CAFE & BAKERYが、様々な人やものことが集まる拠点になってほしいとの願いを込めて、鎌倉古道の切り通しをコンセプトに土壁作りが始まりました。

そして、完成した土壁がこちらです。切り通しの壁(地層)をイメージし、荒々しいテクスチャーと土の色そのままのグレーのグラデーションで仕上げました。

地層は砂や粘土、火山灰や小石など、そして生物の混合物などの堆積によって長い年月をかけて形成されます。まさに歴史そのものです。

BREEZE BIRD CAFE & BAKERYも、たくさんのお客様との出会いを積み重ね素敵な歴史を作り上げていく、私たちはそんなことを想像しながらこの土壁に想いを込め、高橋が仕上げました。

そして冒頭にて触れた土の色について話は戻りますが、なんの着色もしない自然界そのままの純粋な色は心地よく、謙虚に空間に馴染んでくれています。お店にいらした際は是非、この土壁もご覧いただけたら嬉しく思います。(m.t)